帰り道。

とある学生の黒歴史ブログ。

覇眼 prologue

ある都市のある昼。
俺はいつも通り追われていた。

俺の名前は時瀬絢斗(ときせあやと)。
18。
なんで俺が追われてるかというと、理由はこの左目にある。

『覇眼』。
誰がそう名付けたかは知らないが、こう呼ばれている。
いつからか人類にはごく稀に、右目もしくは左目に力を宿した人間が生まれるようになった。
その力っていうのは多種多様で、まだわからないことがとても多い。
力が発現するのは生後3ヶ月程で、多くの人間はその時点で研究所送りになる。
それをよしとする親ばかりではなく、現に俺の両親は俺が力を持っていることを隠しとおしていたらしい。
だけど、ひょんな事件に巻き込まれたことで俺の力が世間に広まってしまった。
その力がしょうもない力なら研究者達もそう躍起になって追うこともないだろうが、何分俺の力は特別に輪をかけた特別な力だった。

時を止める力、『時の王(タイマー)』。
覇眼の中でも王の名を冠する、『クラス:キング』の力。
このご時世、どうやら覇眼が軍事利用されてることも少なくないらしく、俺みたいに強力な力はかなり注目を集めてしまう。俺みたいに逃げ回ってる能力者も多いらしい。
クラス:キングの能力は、使うと目に紋章が浮かぶ。見た目でわかるってことだ。
で、俺はいつも通り逃げてたわけだが、ついに捕まりそうになってる。
ぶっちゃけやばい。


「遂に追い詰めたぞ」
追っ手に退路を塞がれ、俺は今路地裏にいる。
「おとなしくついてきてくれるなら手荒な真似はしない」
「生憎、俺は自由人なものでね…そうそう捕まってたまるかよ」
やむをえない。俺は左目に意識を集中する。

「時の王!!」

瞬間、世界が止まる。
今の俺が止められる時間は約10秒。
いつもならこれで逃げられるはずだった。

世界は10秒も経たず動き出す。

「っ!?」
「何も対策してこないはずがないだろう、時瀬絢斗。」
やつの手には量産型『覇眼抑制機』、通称『抑制の王(ストッパー)』が握られていた。
「この装置の影響でお前は通常の半分も力を出せないようになっているおとなしく捕まるがいい。」
万事休すか…そう思ったとき、奴は現れた。

「甘いんだよねぇ」

俺の視界が青く燃える。赤く瞬く。
耳に入るのは追っ手の絶叫。
そして、女性の笑い声。
何が起きてる……そう考えた瞬間、俺の意識は途切れた。


次に目を覚ました時、俺は椅子に座らされていた。
そして目の前には、

「ようやくお目覚めかい?」

昼間の女。
「…俺を、助けてくれたのか?」
女は笑う。
「君がどう受けとるかは勝手だが、善意だとは思わない方がいいぜ?ふふ。」
わからない。何を考えているのか。
女は続けて言う。
「昼間、君の追っ手を追い払った時に見たと思うけど、僕も能力者でね」
俺は女の目を見て驚愕する。
「僕は覇眼をふたつ持ってる。」
女の両目に、紋章が浮かんでいた。
クラス:キングを意味する紋章が。

ごく稀に生まれる『覇眼能力者』。
そしてその中でもごく少数な『クラス:キング』。
そしてその上に位置する、『両覇眼』。
両覇眼且つ、その両目がクラス:キングの人間が存在する確率なんてそれこそ天文学的な数値だ。

「で、僕が君をつれてきた理由だが」
女は近くにあるホワイトボードに字を書いていく。

覇 眼 戦 争

「覇眼戦争…覇眼が戦争に使われてるのは、君も知ってるな?」
俺は無言で頷く。
「当然だが、覇眼持ちの多くはそれを望んではいない。戦争に駆り出されるんだからな。で、その覇眼持ちのうちの一人が立ち上がった。この国を、この世界を潰すためにね。まぁ、僕なんだけど。」
「それと、俺をつれてきたことは繋がらないじゃないか」
「繋がるよ。僕は君も連れて、世界と戦うんだから。」

何を言ってるんだこいつは。

「何を言ってるんだこいつは、って顔だね」
「ぜっっっっっったいにいやだ」
「ふふ、言うと思ったよ。でも君に拒否権は無いと思うぜ?」
女は笑いながら言う。
「どういうことだ…?」
「君、歳の離れた兄が居たよね?覇眼持ちの」
「………あぁ」
嫌なことを思い出してしまった。

俺の兄は俺と同じくクラス:キングの覇眼持ちで、能力を隠して生きてきた。
だが俺の能力がバレてしまった時、俺をかばって捕まってしまった。
正直、尊敬もしていたし、大好きな、誇れる兄だった。
兄が捕まったのは自分のせいだ。

「彼、今戦争に連れ出されてるんだよ。人体実験とかされてるみたいだね」
女は俺に写真を見せる。
そこに写っていたのは、紛れもなく、俺の兄だった。
兄が、戦場で、能力を振るっていた。

絶望。
それだけが頭を埋めつくした。

「ねぇ、ムカつかない?この世界。力があるのは僕達なのに、なんで追われる必要がある?利用される必要がある?」
女の言葉には、憎しみの色が込められていた。
「僕の名前は、天龍院鳳凰(てんりゅういんほうおう)。能力は…」
女の右手は青い炎を、左手は紅い雷を纏っていた。
「『罪の王(ギルティアー)』と、『罰の王(ジャッジャー)』。二人で世界を潰そう。君は兄の為に、僕は僕の為に。」

差し出された手を、俺は握り返した。

「『時の王(タイマー)』、時瀬絢斗だ。」



ここから、時の歯車が回りだした。

世界に抗い、世界を憎み、世界を潰すための運命が、幕をあけた。